9月7日(日)から16日(月)までの9日間、仲間達とアメリカ縦断の出張に行って来た。
13時間のフライトを経てNYに入り、シカゴ、シアトルと回る強行軍であった。「東」に向う海外旅行は「時差ボケ」がきついと言うが、更に、米国内にある3時間の時差には悩まされた。
NYで時差ボケが少し解消するとシカゴである。1時間時計を進める。2日経って今度はシアトル。更に2時間時計を進めるのだ。イチローなど米国に渡った日本人大リーガー達が、まず悩まされるのが、言葉の前にこの国内時差の存在だという。全くそのとおりである。
筆者も時間の感覚が完全におかしくなった。未だに朝3時過ぎには目が覚めてしまう。
幸い、仕事の方は予想以上に順調に進んだが、ご存知の「金融パニック」の真っ只中に放り込まれたのである。NYでの仕事始めの8日は、住宅金融公社2社を米国政府が救済するとの発表を受け、世界中の株価が急騰する。しかし、その後は正に金融崩壊の連鎖である。
15日に起きたリーマンブラザーズの破たんが今回の金融危機の発端である。その後は、メリルリンチのバンカメ救済、AIGの国家管理下へと、米国が誇る名門企業が続々と破たんに追い込まれていく。写真は、150年以上の歴史を誇るリーマンブラザーズの本社ビルだ。

リーマンブラザーズ本社ビル(www.trfutures.comより)
実は、1987年の10月の米国出張の時には、「ブラックマンデー」に出くわした。21年前の10月19日、筆者はフロリダ州のタンパからNYに向かうところであった。その日の株価は、508ドル安、下落率22.6%である。この時は、全米が正に騒然たる雰囲気に包まれていた。
一方、今回はどの都市に行っても全く拍子抜けするほどの冷静さである。むしろ、「冷淡」であった。世界中がアメリカ発の「金融パニック」の行方を固唾を飲んで見守る中で、アメリカの日常は「全く何事もなし」である。今回は、「金融パニック」下の米国からの現地報告である。 テレビの関心事は「ハリケーン・アイク」
連日にわたって、テレビが真っ先に伝えていたのは、「ハリケーン・アイク(Ike)」の動きであった。
ちょうど4年前のほぼ同じ時期、「ハリケーン・カトリーナ」が米国南部を襲い甚大な被害をもたらした。「アイク」は、これと同じようなコースを辿っていたので、国民の関心は高かったのだ。
「カトリーナ」は、ハリケーンとしては最大級のカテゴリー「5」であった。最大風速78メートル、最低気圧が902hpという凄まじいハリケーンで、ニューオーリンズ市の8割を水没させ、死者は1100名以上にも及んだ。「アイク」も一時は「3」〜「4」に発達するとの予想がなされていたのである。
下の図は、9月8日(月)午前11時の「アイク」のそれまでの進路である。テレビでは、この後の進路と勢力拡大の動きを刻々と予報していた。結局、このハリケーンは、精々「2」の勢力にしか発達せず、大した被害をもたらさずに、大西洋に抜けていった。

ハリケーン・アイクの進路図(サイエンティフィック・アメリカンHPより)
ところで、米国のハリケーン予報は、日本の台風予報より圧倒的に分かり易い。進路の予報は同じようなものだが、勢力が何時頃に「どの程度の激しさ」になるかが数字で表示される点が全く違っている。日本の台風の勢力は、中心域の「風の強さ」と「暴風域の広さ」が「形容詞」で示される。
「猛烈」で「超大型」という日本では最大級の台風が、アメリカではカテゴリー「5」だ。一方、「並」で「大型」の台風と聞いて、どの程度の被害をもたらす台風なのかが分かる方がいるだろうか?この台風は、米国流に直すと、カテゴリー「2」になる。日本もこの方式への切替えを検討すべきだろう。
ところで、ハリケーン・アイクの名前だが、米国の34代大統領「アイゼンハワー」の愛称である。ある程度の年配の方なら、昭和30年前後の大統領「アイク」の名を懐かしく思い出すはずだ。アメリカでは、大統領のニックネームをハリケーンの名前に拝借している。「官」らしくない洒脱さだ。
日本流に言えば、台風「角さん」である。日本の台風は、発生順に番号が振られるだけで面白くも何とも無い。その上、全く記憶に残らないという問題がある。これも直したほうが良い。
「女性初」の副大統領候補への関心
ハリケーン報道と並んで、マスコミが多くの時間を割いて報道していたのが、サラ・ペイリン共和党副大統領候補であった。マケイン大統領候補がペイリンを副大統領候補に指名したのが9月4日である。その直後ということもあって、テレビへの露出度はオバマ、マケイン両候補を上回っていた。
写真の通りの美貌であり、若い頃はミスコンテストの常連であったそうだ。現在44歳で、5児の母親でもある。全米ライフル協会に所属するガチガチの保守派である。現役のアラスカ州知事だが、中央政界では全くの無名の候補者だ。テレビで見ると、溌剌とした受け答えは確かに魅力的だ。

ペイリン候補(“Zimbio”ホームページより)
マケイン氏が彼女を副大統領候補に指名した戦略は、一応の成功を収めている。世論調査によると、ペイリン氏に「好感」を持つ有権者は58%に上っており、4人の正副大統領候補の中ではトップの位置を占めたのだ。低迷気味だったマケイン候補の支持率も、その後はやや巻き戻したという。
一方、連日のテレビ報道から垣間見えるのは、オバマ氏が選出されれば「黒人初」の大統領の誕生であり、一方、マケイン氏が選出されれば、「女性初」の副大統領が誕生する、という対決の構図である。11月の大統領選挙は盛り上がるはずである。米国民は果たしてどちらを選択するのか?
余談になるが、彼女の縁なしメガネが思わぬ人気を呼んでいるという。美貌で知的な彼女にあやかろうと、このメガネを買い求める客が殺到していると言うのだ。実は、このメガネ、日本の福井県のメーカーが作っている。レンズとフレームをつなぐネジが無い独特の工夫も評判を呼んでいる。
彼女は、その後、意味不明の発言を連発し、副大統領の資質について疑念を持たれていたが、猛特訓の成果なのか、副大統領同士の討論会は無難に切り抜けたそうだ。
一方、我々が米国に行っている間に、自民党総裁選が行われていた筈である。ところが、向こうの新聞には誰が立候補したのか、全く報道がなされない。ようやくイギリスのフィナンシャル・タイムズ紙を読んで、5人の立候補を知った。米国の日本など諸外国への無関心はひどいものだ。 ボーイング社のエバレット工場見学
米国旅行の最終目的地は、あのイチローがいるシアトルであった。シアトルは、樺太と同じ緯度に位置するが、海流の影響で気候は温暖である。湖と緑が多く、米国民が住みたい街のトップクラスにあると言う。シアトルは、マイクロソフト、スターバックス、アマゾンドットコムなどの発祥の地だ。
また、米国が誇る航空機メーカー「ボーイング社」の本拠地だ。筆者は、ボーイングが作っている最新鋭旅客機「B787(ドリームライナー)」の製造工程が見たくて、シアトル郊外のエバレット工場の見学ツアーに参加した。ところが写真のストが続いており、工場は閉鎖中だった。

ボーイング社のスト風景(NYタイムス・HPより)
びっくりしたのがエバレット工場のスケールの大きさである。工場には、ジャンボジェットが離着陸できる3000メートルクラスの飛行場が用意されているし、多数のジャンボ機がそこら中に並んでいる。「B787」は、日本を始め世界中で分割製作され、この工場で最終組立てが行われる。
「B787」は絶好調のようで、既に3000機もの注文を受けているという。一方、本来であれば今年の春には、1号機が全日空に届いていた筈が、多くの不具合が重なり、製造は遅れに遅れている。どうやら2年遅れになりそうだ。それに拍車をかけているのがこのストである。
今回のスト突入の原因は、「世界への分割発注時には組合の事前承認を認めろ」、という組合要求を経営陣が拒否したことによるものである。生産の国際分業は、アメリカ人労働者にとっては死活問題かも知れない。それにしても、「金融パニック」が進行し、ボーイング社自体が危急存亡の時のストである。日本の労働組合とはかけ離れた、米国労働者の権利意識の強さは相変わらずだ。
金融工学を駆使した先端的金融業とボーイングに代表される航空・宇宙産業は、米国の「強さ」の象徴であった。その二つが変調をきたしていることを肌で感じた9日間であった。
現地で見る限り、米国の一般国民は、米国発の金融パニックが世界に波及し、世界中が沈没しかかっていることには無関心である。一方、権利意識が強過ぎる「組合」も健在である。
世界の金融・経済のスーパースターだった米国は、確実にその地位から崩れ落ちている。
米国のこの危機をどちらの新大統領が救うのか?政治の出番は「待ったなし」である。 |