首都圏水没
−ハリケーン・カトリーナの悪夢の再現
2005年11月3日

地球の気象が異常を極め、世界的な規模で気象災害が続発している。
日本には、昨年1年間で10個もの台風が上陸した。これは、観測史上始めてのことである。
それまでの台風上陸個数は、年平均2.5回であったから、この上陸数は異常である。

ちなみに、台風の日本への上陸とは、北海道、本州、四国、九州の海岸線に、台風の中心が達した場合をいう。沖縄や佐渡島を大型台風が直撃しても、上陸とは呼ばない。
島の場合、気象庁では「通過」という。

ところで、損保の台風災害による保険金支払額も史上空前の規模に上り、昨年度は7、274億円(日本損害保険協会調査)に達した。
このような気象災害多発の背景には、地球温暖化の進行がある。

一方、海の向こうでは、巨大ハリケーンが相次いで米国南部を襲い、ハリケーン・カトリーナでは、ニューオーリンズは市街地の約8割が水没した。この大災害による死者は1、000名を超え、損害保険会社による保険金支払額は、600億ドル(約6.7兆円)を超える見通しである。

水没したニューオーリンズの市街地(出典: フリー百科事典『ウィキペディア』)

実は、日本でも昭和34年(1959年)には、「伊勢湾台風」によって愛知県が水没し、死者行方不明者が5、000人を超えるという大災害を経験している。その後、これだけの大災害は起きていない。日本には、ニューオーリンズのような大災害は発生しないと安心して良いのか?今回は、旧建設省(現国土交通省)がひそかに恐れる首都圏水没の悪夢を検証する。


利根川堤防の大決壊

東京の葛飾区や江戸川区等の下町一帯を水没させた、戦後の大災害はカスリーン台風によってもたらされた。太平洋戦争の傷跡が色濃く残る昭和22年(1947年)の出来事である。
カスリーン台風は9月14日から17日にかけ、紀伊半島沖から房総半島をかすめ三陸沖に抜けている。

日本に上陸こそしなかったものの、秋雨前線を刺激し、秩父で611ミリの総雨量を記録したのをはじめ、関東周辺の山地に400ミリを超える豪雨をもたらした。利根川は、本支流合わせ24カ所で堤防が決壊する。下の写真は最大の決壊場所の航空写真である。

1947年9月16日午前零時20分、北埼玉郡東村(現・大利根町)の利根川右岸堤防(上の×印)が幅約340mにわたり決壊した。ほぼ同時刻の同日午前零時15分、渡良瀬川堤防が川辺村(現・北川辺町)三国橋付近(右の×印)で延長約380mにわたり決壊する。

利根川は上から下に流れており、写真の中央部分で渡良瀬川と合流している。東北本線の栗橋鉄橋近辺である。なお、写真左側の先が東京の下町である。


「利根川の歴史」ホームページより、「写真で見るカスリーン台風」

堤防を崩した濁流は、埼玉県南部の町を呑み込み、4、5日後には、東京東部低地(葛飾区、足立区、江戸川各区)に達し、この地区を水没させた。利根川は、徳川幕府以前の流れに戻り、一気に東京湾へとなだれ込んでいったのである。

氾濫面積は約450平方キロ、関東だけで14万戸近い家屋が水につかっている。関東を中心に死者・行方不明者1、930人、東北地方等を含めると、浸水家屋30万戸という大水害であった。


北上川の大洪水

実は、筆者自身このカスリーン台風に遭遇し、当時の岩手県南部で洪水を経験している。
カスリーン台風は、東北地方にも豪雨をもたらし、北上川が大洪水を引き起こしたのである。
筆者の生家は岩手県川崎村(現一関市)であり、地形の関係から洪水の名所であった。


みちのく「川ネット」ホームページ

『炎立つ』の主人公である安倍氏の時代には「川崎の柵」が置かれていた地域であり、軍事的な要衝であったらしい。写真の左側で北上川は狭い崖の間を流れており、北上川の水位が一気に増す地形になっている。そのため、増水しきった濁流が、一気にこの地域を呑み込むのである。

その当時も、2階まで浸水が進み、当時の様子を写真で見ると、一帯はまるで松島湾のような様相である。家の軒先には、必ず小船が括りつけられていた。実は、この翌年のほぼ同じ時期に、今度はアイオン台風が来襲し、一関市や、この川崎村が再び水に浸かるのである。

今は、スーパー堤防が築かれており、洪水の恐れはまずない。
夏には大掛かりな「花火大会」が開かれることで有名である。


首都圏水没(悪夢のシナリオ)

さて、首都圏の水没である。この悪夢のようなシナリオは、カスリーン台風の再現モデルとして旧建設省(現国土交通省)が発表している。カスリーン台風の時と同じ量の雨が利根川上流に降り、当時と同じ個所が決壊したらどうなるか、という被害想定をコンピューターで試算したのである。

この試算結果は悲惨である。氾濫面積は地盤沈下進行などで560平方キロと当時の1.25倍に拡大し、被害人数も流域人口の増大で211万人と当時の3.5倍に達するというのである。
この結果、被害総額は15兆円(当時は千百億円)と予想している。

この被害想定は、ビデオにもなっており、テレビの災害特集番組などでも放映されているのでご覧になった方も多いと思われる。旧建設省のこの被害想定は、万が一を想定したものではあるが、首都圏水没が他人事ではないことを銘記する必要がありそうである。
下の図が、被害想定のベースとなった、カスリーン台風による被害地図であり、いかに広大な地域が水に浸かったかが分る。この災害が規模を拡大して再現するのは、正に悪夢である。


出典: フリー百科事典『ウィキペディア』


結論

首都圏水没が再現すれば、損害保険会社には、想像を絶する損害をもたらすはずである。
補償範囲の広い総合型の火災保険(「住宅総合保険」)であれば、風害・雹害・雪害に加えて、水害による損害も補償する仕組みになっているからである。

水害の場合には、全損であっても補償額は保険金額の7割が限度となっている。
また、床上浸水による一部損では、その被害の状況に応じて100万円、200万円といった支払限度額が設定されているとはいえ、被害家屋数が半端な数ではないのである。
なお、水害等の損害もその全額を補償する、新しいタイプの商品も現れている。

今年も台風被害が相次いでいる。損保会社が、保険金支払いの経営リスクを緩和するには、再保険を活用する方法もある。だが、カトリーナの被害を受けて再保険の料率が上昇することは間違いなく、コスト増は避けて通れそうにない。

このため、火災保険の料率引上げの観測も浮上している。
化石燃料の浪費等で地球温暖化は一層進行している。そのツケは重い。


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